令和5年度の税制改正大綱により、相続税にも大きな改正が実施されることになりました。目玉は、過去3年の生前贈与が無効になる「生前贈与加算」の拡大と、すべての生前贈与が無効になる「相続時精算課税」への非課税枠の設定です。

1.生前贈与加算とは

相続税は、被相続人が死亡したときに保有していた財産にかかるのが原則です。そのため、生きてる間に家族に対して財産を贈与しておけば、その分だけ相続税の負担は軽くなります。
しかし、被相続人が亡くなる直前にたくさんの贈与を行い相続税を圧縮させることを防ぐため、死亡直前3年間の贈与については、贈与を無効にして相続税の対象とされる(贈与税の基礎控除110万円以下であっても)ことになっています。

いままでは、加算となる期間は「3年間」というルールになっておりましたが、今回の税制改正によって「7年間」に拡大されることになりました。

今回の改正の対象は、令和6年1月1日以降の贈与となります。
仮に、令和6年以降毎年贈与税の非課税枠内の100万円を贈与し、令和13年に相続が発生した場合には、過去7年分の贈与700万円が無効になり、相続税の計算に取り込まれてしまいます。

なお、令和5年12月31日までの贈与については、これまでと同様に「3年間」が加算対象です。

2.相続時精算課税とは

相続時精算課税とは、生前に贈与する財産をすべて相続税の計算に取り込むことを条件に、贈与に係る手続きを簡略化するというものです。

相続時精算課税を採用した場合には、贈与税の基礎控除110万円が適用されませんので、贈与した金額が110万円を下回っていても、すべて相続税の計算対象とする必要があります。

相続税の計算は、「相続時の時価」によって行うことが原則とされていますが、この制度により、贈与された財産について相続税の計算をする場合、「贈与時の時価」により行うこととされています。
そのため、値上がりが見込まれる不動産や自社株のような財産を保有する資産家だけが、この制度を活用していました。

そして、今回の税制改正により、この相続時精算課税制度にも大きな変化が発生しました。これまでは、設定されていなかった「非課税枠」が設けられることとなったのです。
相続時精算課税制度は、利用者が極めて少ないことが問題視されていました。この改正により、相続税節税の手段として検討する方は増加することが見込まれます。

3.通常の贈与と相続時精算課税の非課税枠の違い

上述したように、通常の贈与税の非課税枠は、生前贈与加算の対象となります。そのため、非課税枠いっぱいの贈与を毎年していたとしても、改正後は770万円が相続税の計算に取り込まれてしまうことになります。

一方で、相続時精算課税の非課税枠ですが、同じ110万円ではありますが、生前贈与加算の対象外となるようです。そのため、通常の贈与では770万円が相続税の対象となるケースでも、相続時精算課税を採用していれば、無税ということになります。

4.相続時精算課税の注意点

相続時精算課税は、新たに創設される非課税枠の活用によって、新たな節税手法のひとつとなりそうです。ただし、いくつか注意点がありますので、紹介いたします。

・一度相続時精算課税を採用すると、通常の贈与制度には後戻りできない

・相続時精算課税で贈与した財産は、贈与時の時価で相続税を計算するため、時価が暴落したような場合でも、値下がり前の金額で相続税を計算する。

・採用する場合に届出の提出が必要で、相続税の計算が煩雑になる

手続きや効果試算など複雑ですので、相続時精算課税の採用をする場合、税理士等を関与させた方が望ましいと考えられます。